#16『スリー・ビルボード』ミニッツライナー(115分)

ミニッツライナーとは?
映画本編ごとに止めて
「だれが」「なにをした」
かだけをずつ書いていくことで  
映画の構造をより深くたのしむ方法です
_SL1000_






こんにちは
今回は筆者2018年ベスト暫定1位
スリー・ビルボード』をミニッツライナーしていきます

『ゲット・アウト』に席を奪われ、『シェイプ・オブ・ウォーター』に敗れた映画
第74回ヴェネツィア国際映画祭コンペティション部門。脚本賞
第42回トロント国際映画祭。観客賞
第75回ゴールデングローブ賞映画部門。作品賞(ドラマ部門)。主演女優賞(ドラマ部門)。助演男優賞(ミュージカル・コメディ部門)。脚本賞
第71回英国アカデミー。作品賞。主演女優賞。助演男優賞。オリジナル脚本賞。英国作品賞
第90回アカデミー。主演女優賞。助演男優賞



目次

【前半】

#16『スリー・ビルボード』ミニッツライナー(115分)
読めばいつでも映画を思い出せるように「だれが」「なにをした」かだけで書きました

【後半】
まとめ&15分解説
「第90回アカデミー脚本賞級の名作」

『スリー・ビルボード』がもっとおもしろくなる!映画を教科書のようにわかりやすくした解説です

あとがき
オスカー・ワイルドについて
~なぜ?ウィロビー署長は自殺したのか~

珍しく、もう1つの読み物として腰を据えて書いたので気が向いたら読んでください




それではどうぞ



2017年公開『スリー・ビルボード』 上映時間115分
Three Billboards Outside Ebbing, Missouri
監督 マーティン・マクドナー
脚本 マーティン・マクドナー

※数字は上映時間の分です
1.3枚の広告看板
2.ミルドレッド、3枚の広告看板の前で車を停める
3.ミルドレッド、車を走らせる
4.ミルドレッド、エビング広告社を訪ねる
5.ミルドレッド、1年間の広告費。使えない言葉。いつ頃掲載できるかを質問。1ヶ月分の広告費と広告文を渡す
(窓辺で裏返った虫を起き上がらせる)
6.ディクソン、3枚の広告看板の前を通りがかる
7.ディクソン、「なぜ?ウィロビー署長」を見てメキシコ人の作業員に事情を聞く。次の看板を見ろと言われて進む
8.ディクソン、「犯人逮捕はまだ?」を見て黒人の作業員に事情を聞く。次の看板を見ろと言われて進む
9.ディクソン、「レイプされて死亡」を見てウィロビー署長に電話をする
10.ミルドレッド、
3枚の広告看板の前を通ってロビーを学校に送る
11.ミルドレッド、警察署の前を通ってギフトショップに到着
12.ウィロビー署長、レッドに広告の掲載期間。彼女が払う金額。掲載者はミルドレッドかを質問
13.ディクソン、レッドに殴りかかる
14.ミルドレッド、3枚の広告看板の前でテレビの取材に答える
 ディクソン、テレビを見る
 ウィロビー署長、テレビを消す

15.ウィロビー署長、ミルドレッドの家を訪ねアンジェラ・ヘイズの事件を釈明する
16.ミルドレッド、国中の男を捜せと反論
17.ウィロビー署長、癌を告白
 ミルドレッド、知っていたことを明かす

18.ディクソン、バーでレッドを挑発
19.ディクソン、レッドにウィロビー署長が癌であることを明かす
20.ミルドレッド、ディクソンを挑発
 ジェームズ、ミルドレッドにテレビ出演を褒める
 ディクソン、ミルドレッドに言い負かされる

21.神父、ミルドレッドの家を訪ね町中が広告に反対していると主張
22.ミルドレッド、ギャングを取り締まる法律の話をする
23.ミルドレッド、同じ制服を着てアジトを持つ者は少年が犯されていても沈黙を貫くはずだと反論
24.ウィロビー署長、血液検査を中断。ディクソンにアンジェラ・ヘイズの事件簿を持ってこさせる
25.ウィロビー署長、事件現場で3枚の広告看板の3枚目の焼けた土の前に
座り込む
26.太った歯医者、ミルドレッドを治療
27.ミルドレッド、反撃
28.ウィロビー署長とディクソン、ギフトショップを訪ねミルドレッドを逮捕
29.ディクソン、ミルドレッドに言い負かされる
30.ウィロビー署長、ミルドレッドから事情聴取
31.ウィロビー署長、裁判になれば広告費が払えないこと。元旦那のトラックを広告費に当てたこと。元警官チャーリーのことを話す
32.ウィロビー署長、吐血。救急車で運ばれる
33.ロビー、帰宅途中で3枚の広告看板に強く反対する
34.ミルドレッド、アンジェラの部屋でベッドに腰掛ける
35.ミルドレッド、アンジェラと口論
 アンジェラ、家を出る
36.アン、ウィロビー署長の退院の準備をする
37.チャーリー、ミルドレッドの家を訪ねる
38.チャーリー、広告のことで異議申し立てる
39.ミルドレッド、ぺネロープを悪く言う
 チャーリー、殴りかかる
 ロビー、仲裁に入る
 ぺネロープ、トイレを借りる

40.チャーリー、広告では解決しない
 ミルドレッド、19歳の子と寝ても解決しない

41.チャーリー、事件の1週間前に起きたことを話す
42.ディクソン、母から入り知恵を貰う
 ミルドレッド、デニーズの逮捕を知り警察署に向かう

43.ディクソン、デニーズの保釈を断る
44.ディクソン、ミルドレッドに言い負かされる
 ウィロビー署長、娘たちを遊ばせておく

45.ウィロビー署長、アンと森へ出かける
 ミルドレッド、3枚の広告看板に花を飾る

46.ミルドレッド、鹿に遭遇
47.レッド、来月の広告費の支払いを求める
48.パメラ、レッドに5000ドルが入った封筒を手渡す
49.パメラ、メキシコ人の自転車配達から受け取ったことを説明
 レッド、メモを読む
 ミルドレッド、領収書をもらう

50.ウィロビー署長、娘たちを寝かしつける
51.ウィロビー署長、アンを寝かしつける
52.ウィロビー署長、馬小屋で拳銃自殺
53.アン、手紙を見て泣き崩れる
54.アン、馬小屋に行く。娘たちと同じベッドにつく
55.ウィロビー署長、巡査部長に麻袋を脱がされ手紙を書き終える
56.ディクソン、ウィロビー署長の訃報を知る
57.ディクソン、身なりを整える
58.ディクソン、エビング広告社を襲撃。レッドを窓から放り投げる。パメラを殴る
59.ディクソン、道に倒れたレッドを殴る
 アバークロンビー、ベルトに手を当てる

60.ミルドレッド、テレビでウィロビー署長の訃報を知る
61.ミルドレッド、ロビーを学校に送る。缶を投げてきた男子生徒を蹴る。見て見ぬふりをした女子生徒を蹴る
62.アバークロンビー、警察署を訪れディクソンに手をどうしたのか。アンジェラ・ヘイズの事件はどうなっているのか。「銃とバッヂを返せ」と言ったらどうするのかを質問
63.アバークロンビー、拳銃とバッジを没収
 ディクソン、バッジを無くす

64.ディクソン、警察署を出る
65.クロップヘアの男、ギフトショップを訪れる
66.クロップヘアの男、ミルドレッドにウィロビー署長の親友。アンジェラの知り合い。犯人を名乗る
67.アン、ミルドレッドにウィロビー署長からの手紙を届ける
68.ミルドレッド、ウィロビー署長からの手紙を読む
69.ミルドレッド、ウィロビー署長が来月の広告費を払ってくれたことを知る
70.ディクソン、母と今後のことを話す
71.ディクソン、出かける
 ミルドレッド、帰宅中にロビーからディクソンの事件を知る

72.ミルドレッド、燃える3枚の広告看板の1枚目を消火
73.ロビー、燃える3枚の広告看板の2枚目を消火
74.ミルドレッド、燃える3枚の広告看板の3枚目を消火できず立ち去る
75.ミルドレッド、自室で3枚の広告看板を燃やした犯人に復讐を誓う
76.ミルドレッド、燃えた3枚の広告看板の前で取材をするテレビスタッフを挑発
77.ディクソン、巡査部長からウィロビー署長からの手紙を取り来るように言われる
78.ディクソン、警察署でウィロビー署長からの手紙を読む
79.ミルドレッド、エビング広告社から警察署に電話をかける
80.ミルドレッド、警察署に放火
81.ディクソン、アンジェラ・ヘイズの事件簿を保護して警察署から脱出
82.ジェームズ、ディクソンを消火
83.ジェームズ、アバークロンビーに嘘をつく。ミルドレッドを食事に誘う
84.レッド、入院してきた同室患者に親切にする
85.ディクソン、謝る
 レッド、オレンジジュースを出す
(ストローを入れる)
86.ジェローム、ミルドレッドの家を訪ねる
87.ミルドレッドとロビーとジェームズとデニーズとジェームズ、3枚の広告看板を修復する
88.クロップヘアの男、バーに入店。ディクソンの後ろの席に座る(電球の緩みを治す)
89.ミルドレッドとジェームズ、レストランで食事
 チャーリーとぺネロープ、奥の席に座る

90.クロップヘアの男、連れにレイプの話を自慢する
 ディクソン、バーを出て車のナンバーを確認する

91.クロップヘアの男、ディクソンに気づく。酒を買う
92.ディクソン、酒を買う。クロップヘアの男の顔を爪で引っ掻く
93.クロップヘアの男、逃亡
94.チャーリー、ミルドレッドの隣の席に座り自分が3枚の広告看板を燃やした犯人だと明かす
95.ミルドレッド、ジェームズに冷たく当たる
96.ジェームズ、勘定を置いてレストランを出る
97.ミルドレッド、ボトルを持ってチャーリーの席に近づきペネロープを大事にするように約束させる。ボトルをテーブルに置く
98.ディクソン、帰宅して採取した皮膚と車のナンバー証拠品袋に残す
99.ディクソン、ミルドレッドの家を訪ねる。クロップヘアの男が犯人であると話す
100.ディクソン、警官になるために必要なことを話す
101.ミルドレッド、ディクソンに礼を言う
102.アバークロンビー、ディクソンに人違いだと告げる
103.アバークロンビー、事件とは無関係だと説明
 ディクソン、バッジを返す

104.ディクソン、ミルドレッドに電話をかける
105.ディクソン、人違いだったと告げる
106.ディクソン、車のナンバーと住所を知っていることを明かす
107.ミルドレッド、住所を聞く。明日行く予定だと明かす
 ディクソン、同行する

108.ディクソン、母の頭を撫でる
 ミルドレッド、ロビーの寝顔をみつめる

109.ミルドレッドとディクソン、車に荷物とライフルを積んで走り出す
110.ミルドレッド、自分が警察署に放火した犯人だと明かす
 ディクソン、知っていたことを明かす
 ミルドレッド、本当に殺すかと聞く
 ディクソン、「決めてない」と答える

111.ミルドレッド、「決めてない」と答える。「道々 決めればいい」
112.スタッフクレジット
113.キャストクレジット
114.エンドロール
115.エンドロール







まとめ

15分 ウィロビー署長、ミルドレッドに会う
30分 ウィロビー署長、血を吐く
45分 
60分 「なぜ?ウィロビー署長」
75分 ミルドレッド、復讐を誓う
90分 ディクソン、犯人に遭遇
105分 ディクソン、ミルドレッドに電話をかける
ラスト ミルドレッドとディクソン、アイダホに行く



次は、これを15分ごとに解説していきます







15分解説
第90回アカデミー脚本賞級の名作

劇場で見終わった後「これが10年、20年後も名画のリストに残り続ける名作かぁ…」と感動しました
ビルボードの舞台装置としての完成度の高さ、抜群の構成力
帰ったら脚本をすぐに印刷して、ただただ関心させられました

なので今回は何処が映画の脚本として優れているのかについて掘り下げていきます
ディクソンはゲイだとか、鹿は娘のメタファーだとか、馬小屋の自殺は最大の罪だとか、そんな調べたら出てくるような当たり前のことは書きませんよ!

それではどうぞ








 



15分まで ウィロビー署長、ミルドレッドに会う
最初の15分は「映画の紹介」です
主要な登場人物、映画のスタイル・ルール、ラストまで扱う要素はここで紹介し尽くされます


ミルドレッドの最初の台詞はレッドに3つの問いかけをするところから始まります。話してる内容は
①1年間の広告費
②使えない言葉
(1ヶ月分の広告費と広告文を渡す)
③いつ頃掲載できるか
この間、「広告を依頼する」という具体的な言葉は一切使われず
肝心の掲載される「広告文」も一切映りません
具体的な画は映さずに、それを想像するのに十分な台詞を提示して、それが何だったのかは後で答え合わせのように映される
この映画のスタイル「映像ではなく、台詞によって語られたものが映像になる」を最初からやっています


その3枚の広告看板を最初に見つけるのがディクソン
レイプされて死亡」「犯人逮捕はまだ?」「なぜ?ウィロビー署長
“RAPED WHILE DYING” “AND STILL NO ARRESTS?” “HOW COME, CHIELF WILLOUGHBY?”
この3つメッセージの中には、よく見るとそれぞれに人物が隠れています
1枚目の「レイプされて死亡」は…アンジェラ・ヘイズ
2枚目の「犯人逮捕はまだ?」は…犯人
3枚目の「なぜ?ウィロビー署長」は…ウィロビー

順に、被害者加害者それを裁く者。の関係にあることから
看板はただの物ではなく、1枚目はアンジェラ・ヘイズ。2枚目は犯人。3枚目はウィロビーの象徴として描かれています。


一夜が明け、
10.ミルドレッド、3枚の広告看板の前を通ってロビーを学校に送る
11.ミルドレッド、警察署の前を通ってギフトショップに到着
ミルドレッドが息子を送り出勤する日常を見せながら
エビング町の位置関係を把握させ、舞台を紹介しています


ウィロビーがエビング広告社を訪ねるシーン。彼はレッドに
①広告の掲載期間
②彼女が払う金額
③掲載者はミルドレッドか
を質問しています。そう、ミルドレッドと同様3つの問いかけをしながら登場しています
これによって3つの問いかけをする者は映画の中で重要な人物であるというルールがあることを意識させています


そして、
14.ミルドレッド、3枚の広告看板の前でテレビの取材に答える
 ディクソン、テレビを見る
 ウィロビー署長、テレビを消す
3枚の広告看板がテレビで紹介されることで看板が持つ効果通り、ミルドレッド個人の行動は社会に影響を与え、看板の問いかけにあった人物・ウィロビーと対面する。
ここまで経った15分で、3人の登場人物、映画のスタイルルール、ラストまで扱う要素を紹介するだけでなく
「広告が貼られて人々がそれに気づき、対象となる人物が掲載者を探し対面する」
という普通の映画なら1時間かけてやる起承転結を冒頭でやってのけている
3枚の広告看板についての映画ではなく、それは序の口に過ぎないことを意味しています

この15分がウィロビーの行動で終わる通り、前半60分の主人公はウィロビーです


「あんな道通るのはボンクラだけだ」お前が一番最初に通ったんだよ




30分まで ウィロビー署長、血を吐く
次の30分目で第一幕が終わり「映画の第1の目的」が決定します。これで映画が何処に向かって進んでいくのがわかります
この15分間はウィロビーの「」についてです

ウィロビーが癌であることが本人の口から、重ねてディクソンの口から明かされます
このバーのシーンではディクソンレッドミルドレッドチャーリーが一同に会することでレッドとチャーリーが後に2人に成長の機会を与える人物であることが示唆されます

さて、疑問
ウィロビーは犯人を知っていたんじゃないのか?

先程も言った通り前半の主人公はウィロビーです。後半は出てこなくなるので、彼が死ぬまでの数少ない行動1つ1つが重要で無駄なシーンを入れている暇なんてないはずです
24.ウィロビー署長、血液検査を中断。ディクソンにアンジェラ・ヘイズの事件簿を持ってこさせる
25.ウィロビー署長、事件現場で3枚の広告看板の3枚目の焼けた土の前に座り込む
僕はこのシーンが「何故必要なんだろう?」と思いました。ここに来たって何も見つからないのは分かっている上に本当に何も起こらない。しかも、彼はこの後ミルドレッドに敵愾心を向けているので、この行動はおかしいし繋がっていません。入れたとしても順番が逆です。
「死ぬ前にウィロビーにもアンジェラを救いたかった良心があったことを見せる為に入れたんだよ」
それは手紙に書けば済むことですし、そういった趣旨の言葉は手紙にもあります。僕が気になるのは何故?彼の死は罪なのかです
ウィロビーの友人を名乗るクロップヘアの男。その男の素性を言葉を濁すように語った署長。もし、ウィロビーが犯人を知っていたとすれば
テレビで初めて3枚目の広告看板を観た瞬間、彼の頭の中には広告看板の1枚目の人物と2枚目の人物の顔が鮮明に浮かんだはずなんです
だから、翌朝あわててミルドレッドに釈明をした。誰よりも自分に向けられたものだと気づいて焦り、マズイと思ったからです
しかも焼跡があったのはウィロビーの看板の前、嫌でも罪の意識を感じざるを得なかった。手紙に書いた死ぬ理由も、広告のせいでないことも、誰のせいにもせずに潔く罰を受けるための嘘であって、彼は自分のために死んだのだと思います。勝手ですが、そうするしかない

ミルドレッドが社会に与えた影響が出始めます。神父から忠告を受け、太った歯医者から襲撃を受ける。非難を浴び続ける中で突如ウィロビーと口論になる
そして、30分目にウィロビーが吐血
これまで台詞でしか語られなかった「」であることが初めて画として映され明らかになります


「黒人はマズイ、せめて有色人種だと言え」んーそっちじゃないんだよなーディクソン




45分まで 
ウィロビーの血が映され、今まで言葉だけでしか語られなかったものが徐々に映像として語られ始めます
この15分間は「」について集約されます。いよいよ広告看板そのものにスポットライトが当てられます
ロビーにすら広告に反対され、初めてアンジェラの姿が映ります。それから、チャーリーの恋人のぺネロープやウィロビーの娘たち

書かないとは言いましたが一応言います。あの鹿、実はCGではなくメイキングを見るとわざわざ別の場所にブルーバックで撮影した鹿を合成して作っています
撮影地のノースカロライナ州にも鹿は生息しているにも関わらずです
つまり、これはこの場所には存在していない生き物の話をしています。おそらく、ミルドレッドにしか見えていません
鹿が話の途中で画面を横切るとミルドレッドは堰を切ったように泣き崩れてしまう。娘との再会に涙をこぼした感動的なシーンではなく、娘の幻覚が見える程精神的に追い込まれているシーンです
当たり前のことを更に当たり前にする為の説明はこれぐらいにして

さて、母から入り知恵を貰ったディクソンとデニーズ逮捕を知り駆けつけたミルドレッド。結局このシーンは何もなく流れてしまいますが、後半に向けての人物関係の整理、伏線になっています
一度ディクソンとミルドレッドを対立させることで後にミルドレッドが勘違いを起こすキッカケになっていたり、ディクソンが悪いことを起こすのは決まって母と話したときだと観客に印象付けていたりと韻を踏む準備をしています
でも一番注目すべきはミルドレッドの行動です。彼女が警察署に来て最初に取る行動は、デニーズの犯罪への追求ではなく警察への批判です。
問題に対しての解決手段が完全に間違っています。広告看板への批判が高まり、怒りを覚えるあまり彼女が本来持っていた問題に対して正しい解決を目指す判断力。善悪の区別が既に失われつつあるのがわかります


ディクソン、ボケはよくてクズ野郎はダメなのか…




60分まで 「なぜ?ウィロビー署長」
こう思った方は多いかもしれませんが、劇場でこの映画を観始めて最初の何分かで
「あ、これは映画の半分で誰かが死ぬだろうな」と確信しました
映画というのは映像で語るメディアである性質上、画として映っていないものはなかったことになるんです
台詞でどんなに「それ」を口に出したところで、実際に「それ」を映さなければ、それはカメラで撮った嘘八百の作り物のままで作品にまで昇華されないということです

ここまで、人の「」について語ってきた映画は現実で実際の死の過程を映さなければこの作品の中で扱われる「」のリアリティラインは不明なまま本当にレイプなんてあったのかどうかもわからないチープな概念になってしまいます

実際の作品を例に説明していきます
参考作品『ヘイトフル・エイト』『普通の人々』『マンチェスター・バイ・ザ・シー』『レイチェルの結婚』『エイリアン2』

『ヘイトフル・エイト』より
ヘイトフル・エイト』は雪嵐で山小屋から一歩も外に出られず閉じ込められた8人が、口八丁手八丁で御託を並べて自らの身分・経歴を騙り、裏切り者ではないこと証明していく密室での会話劇です。嘘か本当かも分からない疑心暗鬼の中、裏切り者が大きな風呂敷を広げた大演説で主人公を追い詰めます
しかし、これまで幾多の苦難を乗り越えて来た主人公は
「お前の言ったものは全部嘘っぱちだ。本当にあるなら見せてみろ!」と本編で実際に映った体験と自らが過去に得た経験で裏切り者に打ち勝ちます

「映ってないものは存在しない」という映画の仕組みそのものをストーリー展開に組み込んだ作品です

ちなみにこの映画で唯一「本当にあった出来事の映像」として出てくるのは、美しい雪原の中70mmで撮られたフェラチオ・シーンだ!要らねー!

『普通の人々』より
普通の人々』は兄を失った主人公が、そのトラウマから延々と苦しみ続け実際に誰かの死に直面することで兄を失った事故を映像で見せてそれを克服する


これに影響受けて作られた去年の映画『マンチェスター・バイ・ザ・シー』が丁度60分目で同じ出来事が起きます

『レイチェルの結婚』より
レイチェルの結婚』はハンディカムで撮影された結婚式をドキュメンタリー映画のようにした作品です。ほとんど役者がその場のアドリブ演技で徹底的にリアルに撮られているので一見ストーリーらしいお話が見えませんが
心に傷を負った主人公が60分目に自分の起こした事故で死んでしまった弟の体験を「言葉」で告白し、その事故を自らの手でもう一度「映像」で再現することで克服するという

実は、三幕構成をバレないように抑えている映画です

『エイリアン2
』より
エイリアン2』では続編である特性を生かし『エイリアン』の恐怖から唯一生き残った主人公が前作の出来事をそのまま葛藤として持ち続け、何も知らない海兵隊員たちが60分目にエイリアンに遭遇することで恐怖を目の当たりにし、主人公も恐怖を追体験するという『スリー・ビルボード』の元ネタですね


ちなみに「娘」という点でニュートが登場するのが丁度45分目なので、あながちどころか全く冗談でもない

もっと簡単に言うと『シン・ゴジラ』からゴジラの登場カットとCGだけを抜いたら全編にB級感が漂いますよね
「あいつは伝説のガンマンだぜ」と言われていながら、その人物の活躍が偶然にも描かれていなければ「アイツ本当は弱かったんじゃないの?」と思われるわけです(ケーブル、お前のことだ)

なので、ウィロビーの死は映画上の必然です







75分 ミルドレッド、復讐を誓う
前半はウィロビーが死ぬまで、後半はディクソンが主人公の物語になります
エビング広告社襲撃をワンカットで「分かったか?俺は白人も痛めつける」…笑えない
そして、アバークロンビーがさり気無くベルトに手を置くことでバッヂがチラッと映り匂わせるとこまで上手い
そして、警察署を訪れ
①手をどうしたのか
②アンジェラ・ヘイズの事件はどうなっているのか
③「銃とバッヂを返せ」と言ったらどうするのか

見てる最中に3つの問いかけに気づいてる人には、アバークロンビーが本当に署長なんだとわかるように見せています
ウィロビーが死んだことが影響でもう一人やって来ます
クロップヘアの男です。彼の3つの問いかけはこう
①ウィロビー署長の親友
②アンジェラの知り合い
③犯人を名乗る

これが本当だとすれば、彼はウィロビーの葬儀のためにエビングに帰郷し、久々に町を車で流していると3枚目の広告看板をみつけ話題で持ちきりのミルドレッドを知りそれで訪ねて来た
ウィロビーが彼の罪を知ってて隠蔽していたと考えるには十分な関係であり、アバークロンビーはエビングに来たばかりにも関わらず訪ねて来て早々ファイルを見てはアンジェラ・ヘイズの事件について言及している。やはり知っていたとしか思えない

3枚の広告看板が焼かれ3枚目の前でミルドレッド崩れ落ちる。なぜ?ウィロビー署長
広告看板への批判がピークに高まり怒りの限界を超えたミルドレッドは遂に自分の中の存在しない誰かと話始め
ようやく、自らの行動を選択します



ディクソンのパメラ退場パンチ!
     ミルドレッドの男女平等キック!





90分 ディクソン、犯人に遭遇
目的」を得たミルドレッドは報復の結果。被害者の側だと思っていた自分が加害者の側に立たされてしまう
ディクソンは手紙を読むことでアンジェラ・ヘイズの事件という「目的」を得る機会を得ます

ウィロビーの癌からミルドレッドは広告看板を修復し、ディクソンがレッドの優しさに出会うことで事態は沈静化し物語は一旦幕を閉じ第二幕が終わります
  



ここまでクロップヘアの男が犯人であるかのように言ってきましたが
クロップヘアの男は犯人ではありません
その証拠がこれです

5.ミルドレッド、1年間の広告費。使えない言葉。いつ頃掲載できるかを質問。1ヶ月分の広告費と広告文を渡す(窓辺で裏返った虫を起き上がらせる)

85.ディクソン、謝る
 レッド、オレンジジュースを出す
(ストローを入れる)

88.クロップヘアの男、バーに入店。ディクソンの後ろの席に座る(電球の緩みを治す)

裏返った虫を起こす。ストローを向ける。電球を治す
これらの行動はどれも手で物を捻って向きを変えることで物の状態を良い方に変化させる動作をすることで、その人物には敵意がなく悪い人間ではないことを示す表現として使われています

このシーン、脚本には

クロップヘアの男と男性が入店
 ビールを2杯注文してディクソンの後ろのテーブルに座る
 ディクソンは彼に気づかなかった

と脚本にはない表現で、おそらく撮影途中この動作に共通したルールがあるのに気づき付け加えたものだと思います。
ディクソンは彼の存在に気づくのはレイプの会話が始まってからなので、結果人違いだったのもこの表現を見落としていたからだったんです

よく「マーティン・マクドナーは脚本通りに決まって撮る人でアドリブを許さない」という意見を聞きますが
そんなものは嘘です







105分 ディクソン、ミルドレッドに電話をかける
ディクソンが犯人に関心を向けることでディクソンが行動するキッカケ「映画の第2の目的」が決まります
しばらく忘れ去られていた2枚目の看板の問題にようやくスポットが当てられ
この映画が

「レイプされて死亡」がミルドレッド
「犯人逮捕はまだ?」がディクソン
「なぜ?ウィロビー署長」がウィロビー

3人の主要人物がそれぞれの広告看板の問題を解決する話だったんだとわかります

ディクソンは犯人の証拠を入手しバッヂを取り戻すことで
マイナスからプラスに

ミルドレッドは自らの堕落に気づきペネロープを赦すことで
プラスからマイナスに

互いが0になることでようやく対等に話せるようになります







ラスト ミルドレッドとディクソン、アイダホに行く
僕はディクソンがお母さんの頭を優しく手のひらで掴んでいるシーンがめちゃくちゃ好き
「赤色」が怒りの象徴だという部分について今回言及してきませんでしたが、寝ているロビーの服の色はお母さんの広告看板を貼った行動に彼なりの気持ちの整理ができたんだと思います
ミルドレッドにはそれがわかるんですよ

110.ミルドレッド、自分が警察署に放火した犯人だと明かす
 ディクソン、知っていたことを明かす

ここでミルドレッドが笑うのは
17.ウィロビー署長、癌を告白
 ミルドレッド、知っていたことを明かす

自分がやったことを逆に返されて驚き
ディクソンがウィロビーの意思を受け継いだことに、ひとり気づき死んだウィロビーに「良かったじゃない」と笑みを浮かべたんだと思います



ラストをどう考えるのか

野暮ですが、脚本には

「道々決めればいい」
 ディクソンはうなずき
 ミルドレッドは微笑む
 車は走り続ける

と締めくくられています
ですが、最後にフランシス・マクドーマンドがもう一度ディクソンの方を見て唇を噛む演技を見せて
映画はそこで切られています

映画の一番最初に提示した
広告看板の3枚の問いかけ
その全てを解決するために

スクリーンを見ながら僕は「ここで終われ! 終わった」と願った





15分解説おわり






あとがき
オスカー・ワイルドについて
~なぜ?ウィロビー署長は自殺したのか~


最後まで読んでくれてありがとうございます

劇場で観てからずっと、ウィロビーが最期に呟いた台詞「オスカー・ワイルドか」が気になっていて、この機会にオスカーワイルドの本を幾つか読んで
「あなたの息子は立派よ」がどの作品から引用されたのか探してみたのですが、結局みつからず今回の目玉として書けなかったのが心の残りです
これも教養のひとつです。みつけるまで、みつけても読みますよ

…答えではないんですが、ウィロビーのキャラクターを創造するにあたってマーティン・マクドナーがもちろん参考にしたであろう作品をみつけたのでご紹介します

W・H氏の肖像
』1889
シェイクスピアは『ソネット集』で「“W.H.氏”に捧げる」という献辞を添えた
この「W.H.氏」という人物が誰なのかは謎のままで、その正体を巡っては有力な説が幾つかあるが
オスカーワイルドはそれら全ての説を真っ向から否定。
独自の視点、引用を交えて考察し、W.H.とは誰だったのかを巡る謎解きが本書
その結果、シェイクスピア一座で女形を演じていた美少年「ウイリィ・ヒューズ(William Hughes)」こそがW.H.氏の正体だとしている
これはオスカーワイルド自身も認めているが、この説には決定的な証拠がない。並のシェイクスピア学者なら鼻で笑うくらいの知的でないものだとも言っている
しかし、オスカーワイルドの説は疑いながらも常に「私ならこう考える」「こう考えた方がおもしろい」というオリジナリティに溢れている
これはオスカーワイルドのシェイクスピア批評であって、例え間違っていたとしてもオスカーワイルドが尊敬するシェイクスピア像はウソではないはずだ
読んでてなんだか僕の信じる評論の在り方に近く、僕みたいなことしてる笑と思った

いつしかウイリィ・ヒューズの説には一座の関係者シリルという共感者が出てくる
小説の主人公はウイリィ・ヒューズに関する記録を調べていくうちにウイリィ・ヒューズの肖像画。しかも「W・H」の頭文字が彫られたものをみつける
その画家にウイリィ・ヒューズの事を訪ねると何かを隠すように知らぬ存ぜぬを決め込まれた。この絵を依頼したのはシリルだった。急いでシリルを問い詰めるも「信じないだろうから、君のためにやったんだ。でも真実は変わらない」と言い残し翌日死んだ

拳銃自殺で妻が駆けつけたときには警官が来ており、シリルは妻宛に手紙を残していた

お気づきの通り。『W・H氏の肖像』は『スリー・ビルボード』そのものだ

シリルが秘密を隠したまま自殺したことが確たる証拠となり捜索に熱を上げるが、手がかりはそれっきり。
いつしかウイリィ・ヒューズの存在はシェイクスピアを超えて神話と化した
ウイリィ・ヒューズという名の俳優は最初から居なかったのだ
シリルは自らの説を正当化するために殉じることで主人公にウイリィ・ヒューズの存在を確かなものだと信じ込ませていた。という結論に辿り着く
主人公の説は失敗に終わり、シリルを死に追いやった後ろめたさから仲間に手紙を残し彼と同じ理由でこの世を去る

おそらく、ウィロビー署長が自殺を選んだ理由はこれだと思う
犯人は確かに居るのだと思わせながら、信じる者に手紙を残す
もし違っていたとしてもウィロビーのキャラクター像が鮮明になり、案外納得のいく答えだったのは間違いない
僕を長い間ミニッツライナーの考察で苦しめ「ウィロビーは犯人を知ってたんじゃないか?」と信じ込ませたように
後にわかることだが、主人公の死因は自殺ではなく結核による病死だと知らされている。ね、そっくりでしょ

これを読んでしまった僕にはやはりウィロビーが犯人を知っていてそれに殉じたとしか思えないんだ





#16『スリー・ビルボード』ミニッツライナー(115分)
 おしまい

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